Brian'z Imagination

ブライアンねこの、頭の中。

Brian'z Imagination

【小ネタ】リニューアルされたGoogle Fontsのダミーテキストに隠された秘密をスルメのように味わう

f:id:x93mg:20160624223900j:plain

Googleも負けじと頑張っている。最新iPhoneで撮影できる「動く写真」Live PhotosをループGIFアニメに変換するiOSアプリ「Motion Stills」を発表したり、アカウント情報でなくしたiPhoneを発見できるようになったり。テクノロジーの発展って素晴らしい。でもそんなことより、ぼくの中で断然注目度が高いのは、やっぱり1週間前に行われたGoogle Fontsのリニューアルだ。

Google Fontsというのは、Webフォントの無料サービス。これを使えば、簡単なコードをちょっと書くだけで、ブログのフォントをお洒落に飾ることができる

機能が大幅に変わった…とまでは言わないけれど、なんだか野暮ったい感じの雰囲気を脱してマテリアルデザインにシフトし、デザインにもGoogleっぽさが出てきた(フォントだってデザインを構成する一要素なんだから、ダサいと嫌でしょ?)。アイコンもドロップシャドウ。日本語や漢字は無いのが憎らしい*1けれど、アラビア文字やヴェトナム文字、ギリシア文字やタミル文字なども豊富。こんなにいろんなフォントがWebサイトやブログで無料で使えるなんて、本当に素晴らしいサービスだ

ところで、そんなフォントサービス、旧Google Fontsのダミーテキストをご存知だろうか。「Grumpy wizards make toxic brew for the evil Queen and Jack.」ってヤツだ。これにも面白い意味が隠されている。でも、さらに新しくなったダミーテキストを見ると、もっと惚れてしまうのだ。今日はそんな、知らなくても生きていけるけれど、知っているとちょっぴり幸せになれるTipを、井之頭五郎が噛み砕くスルメのように、ゆっくりと味わってみたい。

新しくなったGoogle Fonts

まずは前提として「Google Fonts」が新しくなったという話を少々。もう1週間も前のことなので知っている人も多いかと思うけれども、旧サービスもまだ使うことができるので、折角なら使い比べてほしい。

【旧】https://www.google.com/fonts

【新】https://fonts.google.com/

旧Google Fonts

f:id:x93mg:20160624193512p:plain

【旧】https://www.google.com/fonts

これはこれで問題なかった。太さや幅、SerifかSan Serifかなど、好みのフォントを検索できるし、表示させたいダミーテキストも打ち替えることだってできる。ただ、操作が直感的じゃないなーとは前から思っていた。フォントをページに組み込む時に、どのボタンを押せばいいのか分からず、とりあえず押して確かめる。全然気にならないけれど、ぼくが旧Google Fontsに抱いていた印象はそんな感じだ。

新Google Fonts

f:id:x93mg:20160624193618p:plain

【新】https://fonts.google.com/

新しいGoogle Fontsでは、すでに述べたようにマテリアルデザイン*2を取り入れており、かつモジュラーデザインもかなり意識している。モジュラーデザイン(Modular Design、Modular Gridともいう)というのは去年の末から流行りだしている、まわりのマージン(余白)を取らず、全面をグリッド上にして画面を機能的に使うレイアウトのことだ。フォントの検索結果も1カラムから2カラムになり、個人的には断然見やすくなったと思う。

f:id:x93mg:20160624201002j:plain

色の数が限られているけれど、マテリアルカラーの背景を選ぶこともできる。あまり実用性感じないが…誰得?

f:id:x93mg:20160624201124j:plain

あとFeaturedってとこには「オススメカテゴリ」みたいな感じでGoogleがおすすめフォントの特集を組んでくれている。これもまだ数が少ないのだけれど、確かに1つずつ選ぶよりセットでこれがおすすめです!って言われたほうが選びやすいかも

ダミーテキストの歴史(?)を振り返る

f:id:x93mg:20160624224440j:plain

それでまあ、Google Fontsはいろいろいじってみて欲しいのだけれど、機能も然ることながら、若干気になっているのが、そのダミーテキストの出典。思えばダミーテキストってのはいろいろあったので、ここのところでちょっと振り返ってみることにしよう。

Lorem Ipsumって知ってる?

ダミーテキストとは、本やWebサイトの文章がまだ完成していないときに、プロトタイプを作成したり、クライアントにプレゼンをするときに、正式な文章のかわりとしてサンプルで流し込むもので、テキスト部分のフォント、タイポグラフィ、レイアウトなどといった視覚的なデザインを調整したりわかりやすく見せるために使われる。そのなかでもダントツで有名なのがLorem Ipsum(ロレム・イプサム)だ。

これはいろんなバリエーションがあるのだけれど、最も有名な文章はこんな感じ。

Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua. Ut enim ad minim veniam, quis nostrud exercitation ullamco laboris nisi ut aliquip ex ea commodo consequat. Duis aute irure dolor in reprehenderit in voluptate velit esse cillum dolore eu fugiat nulla pariatur. Excepteur sint occaecat cupidatat non proident, sunt in culpa qui officia deserunt mollit anim id est laborum.

文章自体には全く意味がない。テキストは、古代ギリシアの哲学者キケロの『善と悪の究極について』(De finibus bonorum et malorum)というなかなかパンチの効いた題名からの出典だけど、ラテン語としての文法もめちゃくちゃだ。今でも海外のサイトでは、このLorem Ipsumが使われている。

Macでよく見る「あのイーハトーヴォ…」

f:id:x93mg:20160624224300j:plain

Macユーザーだと、新しくフォントをインストールするときに現れる「あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波。」という書体見本を見たことがあるだろう。これは宮沢賢治の『ポラーノの広場』の一節で、なぜこれが採用されているのか明確な解答は知らないけれど、カタカナ、ひらがな、そして漢字がほどよい割合で出現するので、書体見本としてはちょうどいいのだろう

あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波。 またそのなかでいっしょになったたくさんのひとたち、ファゼーロとロザーロ、羊飼のミーロや、顔の赤いこどもたち、地主のテーモ、山猫博士のボーガント・デストゥパーゴなど、いまこの暗い巨きな石の建物のなかで考えていると、みんなむかし風のなつかしい青い幻燈のように思われます。では、わたくしはいつかの小さなみだしをつけながら、しずかにあの年のイーハトーヴォの五月から十月までを書きつけましょう。

ちなみに余談だけれど、イーハトーヴォというのは理想郷のこと。岩手が由来とされていて、モリーオ(青森)、ハームキヤ(花巻)、センダート(仙台)、とキーオ(東京)のような実在する地名をモチーフとした名前がたくさん出てくる。面白いなぁ。

これに対してWindowsは「Windowsでコンピュータの世界が広がります」とかいう面白みのないダミーテキストとなっている。センスないじゃん。

旧Google Fontsの「Grumpy wizards…」

旧Google Fontsではダミーテキストとして「Grumpy wizards make toxic brew for the evil Queen and Jack.」ってのを使っていた。「不機嫌な魔法使いたちが意地悪な女王と息子に毒薬を作る」というトンデモな文章!なんだけれども、これがまたよく考えられた文字の配列なのだ。

Grumpy wizards make toxic brew for the evil Queen and Jack.

まず全部小文字にして余計なスペースや記号を取り除いてみる。

grumpywizardsmaketoxicbrewfortheevilqueenandjack

並べ替える。

aaaabccddeeeeeefghiiijkklmmnnoopqrrrrsttuuvwwxyz

…おおッ!アルファベット全部使ってるッ!!

このようにアルファベット26文字を全部使う言葉遊びパングラムと呼ばれていて、タイポグラフィの世界ではよく使われているらしい。いやーよく練られた文章なのですね。

新しいGoogle Fontsでは

f:id:x93mg:20160624193618p:plain

それで、新しくなったGoogle Fontsでは、「Grumpy wizards…」は使われず、代わりに様々な文章が使われている。

All their equipment and instruments are alive.

これを入れ替えると…

aaaaeeehiiilllmmnnnpqrrstttuuv

全然パングラムじゃなかった。

これ、なんの文章?

f:id:x93mg:20160624224149j:plain

調べてみると、これフィリップ・ディックの文章だった。

フィリップ・ディックはアメリカのSF作家で、薬物乱用だったりパラノイア、自分の神秘体験を取り入れた『暗闇のスキャナー』や、パラレルワールドで目覚めた有名人を描いた『流れよ我が涙、と警官は言った』などが有名。映画になった『トータル・リコール』『マイノリティ・リポート』で知っているひとも多いだろう『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』が映画化して『ブレードランナー』にもなった。

で、この「All their equipment and instruments are alive.」という文は、彼が1953年に出した短編小説「Mr. Spaceship」からの一節だった。謎の宇宙人との戦争で、人間の脳を動力とする宇宙船を作って…という話。まったく、クレイジーだぜ。

さらに、ほかの文章の出典も調べてみる。

ほかの文章の出典も調べてみた。すると、とんでもないことがわかった。

  • A red flair silhouetted the jagged edge of a wing. (The Jewels of Aptor, by Samuel R. Delany)
  • I watched the storm, so beautiful yet terrific. (Frankenstein, by Mary Shelley)
  • Almost before we knew it, we had left the ground. (A Trip to Venus, by John Munro)
  • A shining crescent far beneath the flying vessel. (Triplanetary, by E. E. Smith)
  • It was going to be a lonely trip back. (Youth by Isaac Asimov)
  • Mist enveloped the ship three hours out from port. (The Jewels of Aptor, by Samuel R. Delany)
  • My two natures had memory in common. (Strange Case of Dr Jekyll and Mr Hyde, by Robert Louis Stevenson)
  • Silver mist suffused the deck of the ship. (The Jewels of Aptor, by Samuel R. Delany)
  • The face of the moon was in shadow. (Mr. Spaceship, by Philip K. Dick)
  • She stared through the window at the stars. (The Millionaire's Convenient Bride, by Catherine George) ????
  • The recorded voice scratched in the speaker. (Deathworld, by Harry Harrison)
  • The sky was cloudless and of a deep dark blue. (A Trip to Venus, by John Munro)
  • The spectacle before us was indeed sublime. (A Trip to Venus, by John Munro)
  • Then came the night of the first falling star. (The War of the Worlds, H. G. Wells)
  • Waves flung themselves at the blue evening. (The Jewels of Aptor, by Samuel R. Delany)

もうお気づきだろうか…?

メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』に、トリビアの泉の冒頭でもお馴染みのアイザック・アシモフ…。

これ、書いたひと、全部SF作家じゃん!!

おお!!なんという共通点!!

GoogleはSF小説がお好き

それで、なんでSF小説かということを考えてみたんだけれども、そういえばGoogleはSF小説が好きだったのを思い出した。

Googleの検索画面で「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」と検索すると「42」という答えが返ってくるということが、一時話題を呼んだ。これは、ダグラス・アダムズのSF作品『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場するフレーズだ。

f:id:x93mg:20160624215011j:plain

ストーリーをザックリと語ると、こんな感じになる。主人公にあたるハツカネズミたちは「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」を知るために、全時代および全世界において2番目に凄いコンピュータ、ディープ・ソートを作った。そのコンピュータが750万年かけて出した答えは「42」だった。

「42だと!」ルーンクォールが叫んだ。「750万年かけて、それだけか?」

「何度も徹底的に検算しました」コンピュータが応じた。「まちがいなくそれが答えです。率直なところ、みなさんのほうで究極の疑問が何であるかわかっていなかったところに問題があるのです」

Googleのこの検索結果は、この作品のオマージュとして知られている。作中でディープ・ソートに750万年もかけてこの答えを出した事を思うと、この問題を解くGoogleの計算は驚異的に速い。Googleが「42」を計算するのに必要なこの驚異的な速度は、Googleの方がディープ・ソートよりもすぐれているというメッセージだ

なんだかGoogle FontsにSF小説の一節が出てくるのは、Googleからのメッセージのような気がするぞ!

まとめ

そういうわけで、新Google Fontsに載っているダミーテキストがSF小説からの抜粋だということを別に知らなくてもいいんだけれど、アイザック・アシモフも言うように、知っているとなんか快感を覚える小ネタだ。ちなみにGoogle CEOのスンダー・ピチャイは「モバイルファストからAIファストへ」(We will move from mobile first to an AI first world.)と言い放ち、すでにGoogleはモバイルは最優先事項ではないことを明言している。そんなことも含めて、Googleが進むベクトルを感じさせる今日このごろなのだった。

Please follow me!

Recommend!

*1:いちおうGoogleからのフリーのWebフォントとして、全ての言語・文字に対応したNoto Sansがある。

*2:詳しく知りたい人はGoogleのマテリアルデザインについてのガイドラインがこちらに書いてあるので参考に。